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月の虜

第15章 雪ー陸奥守吉行ー (裏)


ーー

目が覚めて…
あまりにも静かだからもしかして、とガウンを羽織って部屋を出ると予想通り

『雪だ…。』

庭が真っ白だった。
まだ、夜は明けていないから誰も踏み入れていない真っ新な雪。
縁側の草履を履いて庭に降りると

さく…きゅ…さく…きゅ…

粉雪独特の音がする。

『…楽しい。』

何年振りだろう。
純粋に雪が綺麗だとか、踏み締めるのが楽しいとか思うのは。
大人になると、困ることの方が多かった。
電車が遅れる、車の運転にはかなりの神経を使うし。

『忘れてた…。』

現世で暮らしていた事なんて…

『みんな…どうしてるかな。』

転職にともない、居住地も変わる。
そう言って、移動先などを告げずに去った。
もう、忘れられているかな…

『儚いのに…こんなに綺麗。』

空を見上げたら、目に雪が入って雫となり頬を滑る。
私も…雪のようになりたい。
綺麗で潔くて、全てを包み込むような。



ーotherー

遠征部隊が帰ると、本丸は雪景色だった。

燭台切「ずいぶん積もってるね。」

博多「こりゃ、雪掻きせんとならんばい。」

陸奥守「そうじゃのう。
ま、ワシらわまず風呂に入って飯を食うてからじゃ。
ほいで、みんなの支度が済むまで休もう。」

石切丸「そうだね。
この感じだと、任務は休みになって雪掻きからの雪遊びになりそうだし。」

薬研「だな。
弟達が走り回る姿が浮かぶぜ。」

日本号「なら、俺は雪見酒だな。」

博多「だから、雪掻きするったい。」

遠征部隊がゲートから本丸に向かいながら話している。

陸奥守(ん?あれは…。)
   「ほな、指示があるまでゆっくりしとおせ。」

何かに気づいた陸奥守は隊から離れ、庭へと進む。
そこには空を見上げる、寝衣にガウン・草履という雪に対してはあまりに軽装な主だった。

陸奥守「ある…じ……。」

声をかけようとして、気がついた。
主の瞳から溢れる、透明な雫に。
儚く、美しく、脆く。
そのまま、雪と共に溶けてしまいそうで…
そのまま背後から抱きしめた。



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