第5章 重なる想いー髭切ー (裏)
僕は全ての日課を終え、部屋着に着替えて主の自室へ向かった。
「主、入るよ。」
『どうぞ。』
部屋の中は少し暗い。
主は蝋燭を燈し、寛いでいるようだ。
『暗いかな?』
「いや、僕はこういうの好きだよ。」
『良かった。座ったら?』
「あぁ。」
主に勧められたソファーの隣に座る。
『軽く呑もうか?』
「うん。」
その方が、口が滑らかになるかもね。
僕も、主も。
主は日本酒と切子の猪口、軽いつまみを盆に乗せてきた。
『どうぞ。』
「いただきます。はい、主も。」
『ありがとう。』
互いに注ぎ合い、グラスを合わせて呑み始める。
普段の話から、何気ない雑談をして。
やはり、主の側は居心地が良い。
すっと身体から力が抜けるようだ。
『…で?何が聞きたいの?』
程よく酒が廻り、話が途切れたところで主が切り出してくれた。
さぁ、覚悟を決めようか。
「僕は主の事が好きだよ。
もちろん、女性としてね。
だから、どうしても気になって…
主は誰を好いてるか、聞かせて?
どんな答えでも、覚悟は出来ているから。」
本当は僕を選んで欲しいに決まっている。
…でもね、一番は主の幸せを願っているんだ。
その為ならば、僕は…なんだって出来るよ。
『髭切…。』
僕の気持ちに応えてくれるのか、主は猪口をテーブルに置くと真っ直ぐに向き合った。
『私は審神者だから、刀剣の誰かを選んではいけないと思ってる。
…でも、その気持ちが揺らいでて…。』
「うん。」
『想っている相手に好きだと言ってもらえたら…ね。』
「…もう、両想いなんだね。」
『うん…今、知ったんだけど。そうみたい。』
諦めなければ…そう思いかけた。
今、知った?
『私は…髭切。
貴方の事が、好きなんです。』
「主…。」
『私は髭切と共にある事を願っても…いいのかな?』
「…僕が皆を説得する。
全ての責は、僕が負う。」
『駄目だよ。
ちゃんと、二人で分けよう。
嬉しい事も、苦しい事も。』
「…そうだね。」
そういう主だから僕は、好きになったんだ。
「まぁ、皆は分かってくれる。」
『そうかな?』
だって、間違いなく僕と同じ気持ちだから。
主の幸せを誰よりも願っている。
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