第7章 花喰み
「お別れを…伝えに来ました。
わたしは、この身に業を宿したまま、
わたしだけの華を咲かせるために、神楽舞にすべての人生を捧げるという決断をいたしました。
なので、もう、ここを来ることはありません。
今まで…
…
…」
言い切る前に、お召しになっている服の色で塞がれて、心を離さない香の匂いが思考を占拠した。
「もう、話しちゃダメ…」
硬い体躯、熱い体温、
ダメ…
そんな甘い声で、囁かないでほしい。
麻薬のように思考を奪われて、止められない涙があふれて言葉も紡げない。
「君の言葉は、どういうわけか…
こんな俺にも聞こえてきているよ…
だから、君は話したらダメなんだ…」
ゆっくりと合わされた視線にズキズキと恋心が悲鳴をあげる。
いつもの虹色がほんのり赤くて水分を多く感じた。
これで、もう最後…。
このまま、殺されて同化してしまっても、己の道を進んでも
心を離さない想いが強すぎるから
どこにいても、意識があれば恋慕がもたらす監獄と同じ。
ならば、せめてこのまま流れに身を任せながら
後悔したくないことをしなければいい。
でも、苦しくて…苦しくて
声が出ない…
押し付けられた唇が熱くて夢現
忙しなく肌にたどり着こうと脱がす手は、少し震えているように感じた。
隔てる布が鬱陶しい。
肌で熱を感じたい。
肩を抱かれて、横にされた後
押し上げられた喉に優しく歯先が当たり
湿り気を帯びた息とともに舌がザラリと触った。
ゾクリと騒ぐ血潮が
期待に悦ぶようで
その犬歯が伝えてくる童磨様の想いも
全部受け止めたいと思った。
甘噛みが首筋を這い
寝かされて覆いかぶさる体
熱は滾る情愛にのぼせそう
何度もわたしの髪を撫でいた手は下に降りて
暴いた肌のふくらみを弄ぶ。
舌は首筋を通った後
深く深く息が出来ないほどに舌を絡ませてくる。
親指が、しきりに流れる涙をぬぐって
時に微笑んでくれるの。わたししか知らない顔で…
「......っ」
上体が露わになって這いずり回る手の熱は
こぼれ堕ちていく泡沫の瞬間を拾い集めているよう。
大きな背中に手を回して
同じように求めて
高まる熱は
そのまま溶けてしまいたいと思うほど
狂おしくて愛おしかった。