第6章 足音
支度を終えて、梅子が挨拶をするために部屋を出た。
向かったのは家元の後ろにあるふすまの奥の舞台部屋。
門下生の二人がそれぞれ家元に見えない位置でふすまを引き、菖蒲は両手3本指を着いて頭を下げた。
「本日は、家元に置かれましてはますますの…「よい。始めろ」
しかし…「前置きはよい。始めなさい」…はい」
正式な場ではないからだろうか。
いつもしきたりをおろそかにするなという家元が、この日ばかりは早く終わらせろと言わんばかりの態度だ。
急な出来事。
挨拶などの前置きもない。
準備もあり合わせ…。
この状況で頭の整理もつかない。
目を閉じる。
息と心を整える。
そして、網膜の裏にはあの鬼(ヒト)への想いと
共に見た景色。
静かに目を見開き、顔を上げ、
捧げる家元を見た。