第6章 足音
体で覚えた舞踊は、中身に唄と同じ感情を注ぎ込んで
一人のわたしとして”日神楽舞踊”になる。
突き刺さるような家元の視線は
わたしを訪ねて、こうして舞踊を見せるように指示した意図を諭すよう。
直属の稽古場で、師範の一番弟子である私を見に来た時期を思っても、嫌な予感が背中にこびりついて冷たくする。
願わくば違うことだと言ってほしい。
わたしがわたしで在れる場所が遠のいてしまう。
胸が冷たく疼く。
それでも、胸の内を悟られないように
あの鬼(ヒト)の体温に包まれている瞬間を思い出して
ひたすらに踊り続けた。
人の命や運を祈願し、奉納する神舞だというのに、
人を喰らう鬼を想いながらなんて許してもらえるワケがない。
でも、この感情が恋とか愛といった美しいものに入るのならどうか心の底で枯れぬように咲かせていたい。
そう思うことだけは許してほしかった。
踊り終えた後、
家元の表情は先ほどよりも柔らかくなって
手を着き、首を垂れるわたしをじっと見ていた。
「わたしの正妻として迎え入れる」
「はい…。ありがたき幸せにございます」
家元の判断や支持は絶対。
親が嫁ぎ先を決めてくる世間と同じように、当事者の意思など関係がない。
ましてや、この組織の中では、舞踊を継承するために道場から家元に嫁ぐ者が出れば、その道場は栄えるのだ。
師範には育てていただいたし、ここまで導いてくださった。
縁談を断れば、この道場は地に落ちて稽古場に通う者の処遇も悪くなる。
それは師範に恩を仇で返すことと同じになる。
言葉とは裏腹。
視界からは色が消え失せて、視線の先の指先が氷のように冷たくなるのを感じた。