第5章 花酔ひ
「俺にもそれが出来るかな?」
「もちろんです。」
「じゃぁ、菖蒲と一緒ってこと?」
大きく頷くと「そっか。」とどこか明るい声。
嬉しそうで嬉しかった。
腕の中の小さな存在は
大樹のように強く根を張って
たくさんの葉を生やせば
その下は穏やかな木漏れ日を揺らす
俺に感じる心があるのかと問えば
同じように感じるものがあると君は言う
この体は無惨様に支配されようとも
湧き上がる思考や心を止めることが出来ない
俺が君との関係で思考の変化を劣化と捉えれば
君を殺させるか、目の前で殺されて
都合の悪い記憶は消されてしまうのやもしれない。
それでも君が言うように魂が覚えているのなら
俺はこれからも続いていくこの命を
魂だけが残している記憶がどう支配するのだろうか。
仄かに甘やかで愛おしい香りは俺の肺に入り血液に溶けて全身を巡っていく。
願わくばこのまま
何者にも縛られず
魂が欲するままに生きる道を選べれば
ずっとこのままでいたい。
君と同じ景色を網膜に焼き付けて
一つ一つ俺の心臓の反応を脳に記憶させて
一瞬で消えて無くなる現物の命から紡がれる愛を
俺に向けてくれる菖蒲の今を覚えて生きよう
君が俺に教えてくれるように。
俺がしたいと思う快に従って。
煌々と光る月
花木の香る夜風
二人は空が白む時刻まで肩を寄せあい
互いの今を静かに刻んだ。