第5章 花酔ひ
「爪はどうにかなるけど、俺の犬歯は鬼の象徴だからかどうにもならないんだ。
傷つけたくない。
もし傷つけて、血を流してしまったら、俺の鬼の部分を理性ががどれだけ抑えられるか分からないからね。」
少し人の悪そうな顔をした。
見せつけられた鋭い犬歯は、いつか助けてくれた時のように異様に大きく鋭く尖っていた。
「乙姫様みたいな衣装、いつ見てもとっても素敵だね?
こうして上から見ていると、もっとイケナイ事をしようとしてるみたいでゾクゾクする......。」
虹色の瞳の奥に鬼の首魁からの位がいつもよりも暗く黒く映る。悍ましくも美しくて、麻薬のように心を溶かしていく。
薄められた瞳に長いまつげが被る。
潤んだ瞳とそれが息をのむほど妖艶で、無意識に両手が童磨に伸びて、両頬を包んでは親指で睫毛に触れた。
「童磨さ......」
イタズラに笑む一瞬がすごく優しく映った瞬間、名前を言い切る前に声を飲むように口付けられた。
こんなに甘いのにどうして拒絶できようか。
いろいろな感情が発散もされる間もなく飲み込まされて、閉じた目尻から涙がこぼれた。
さらりとした男らしさを含んだ大きくて美しい手は、熱を持った衝動を絞り出すように布越しに触れる。面積の大きい舌が呼吸を奪うように菖蒲の口の中を嬲った。
白橡色の長い髪が頬をかすめて、一部の隙もないこの鬼男からの香の香りが身を包む。
「菖蒲.....」
「菖蒲....」
接吻の合間に呟かれた名前でさえ回数を重ねて呟かれば媚薬のように昇らせてくる。
口づけの度に余裕を奪うほどに吐息が熱を増す。
やがて唇の隙間に侵入した熱い舌に、全身が甘い疼きに駆られて目の前の鬼男を求めた。
「心臓がこんなにも高鳴る。菖蒲がこんなにも愛おしい。」
「わたしも...好き」
高揚している。笑みを滲ませ艶を増した眼差しに胸が高鳴る。
一瞬のその表情の変化に、色香を帯びた表情でまた、唇の奥まで絡め合った。