第5章 花酔ひ
その言葉に同調するように、身を寄せると、それを埋めるように抱き留めている腕が強くなる。
「ずっと、こうしていたい。それが叶えられるなら、どんなに素晴らしいか....
菖蒲ちゃんも同じこと思ってくれているのかな?」
「はい....」
「いけない子だね....。君は神職の舞巫女じゃないか…。」
「......。」
言葉ではそう言っても、声はどこか嬉しそう。
自分で発した言葉はそのまま自分自身にも言っているようで、互いの胸に優しく深く刺すようだった。
「俺も漸くわかったのだよ....。気持ちはどうすることも出来ぬものだと.....
否定をしたり、はぐらかしたり、誤魔化そうとする程に苦しくなるほど、その想いは強く胸で疼くものなんだって.....」
心の虚無の冷たさを匂わせない。
心が動くことそのものを喜んでいるからこそ出る素直な心を表現する言葉が取り繕ったり誤魔化されるものじゃないから嬉しい。
表現されたその気持ちはお揃いのもの。
脳を溶かすような甘美な声に心が伴って香る想いは、本能的に心のままにこの人の暖かさを求めてしまう。
大きく筋張った美しい手が顎を掬い、息遣いが感じられる距離で視線が絡んだ。
「不思議だね。他人からは淀んで許されない想いが、俺たちの中では限りなく美しく、大切で、壊されたくない物に思うんだ。
こんな思いを俺に教えてくれてありがとう。」
宝物のように頬を包まれて、眼前の美しい虹色の双眼が細められて、薄くて柔らかいものが熱をもって触れた。
「今だけは、俺の菖蒲ちゃんでいてくれないかな?」
吐息混じりで耳元で囁かれ、甘い期待がぞわりと電流のように全身を駆け巡る。
ふわりと体が持ち上げられ、自ずと逞しい腕の中に入り、身を委ねた。
小さく丸まった猫を愛でるように細められた眼差しが、艶めかしく、目が離せなかった。
童磨はそれを肯定ととり、笑みを浮かべ、自身の鑑賞するときの指定席へと向かった。
ふかふかのまろやかな座椅子は、乗せられたものに合わせて沈んで身を沈め、大きな影が跨って上にのしかかる。
「ご覧...。」
美しく整った手の甲を見せては、長い爪がズズズと短くなっていく。
人技とは思えぬそれは己と違う生物だと思い知らされた。