第4章 泥から咲いた蓮のように
「俺に感情ってものは感じたことは無かったんだ。虫みたいに快・不快だけに敏感でね。
人の話を.....、信者の話を聞いて、どう感じるものなんだと解ってきても、それを俺自身で感じることが出来ず心底馬鹿らしいと思う反面、そんなものがあるなら感じてみたいと思ったものだ.....。」
「何故それをわたしにお話くださるのですか?」
「他の誰でもない。君が教えてくれたからじゃないか。」
「......わたし、なにも.....」
そこまで言いかけるとふわりと体が浮いた。
否、童磨さんに脇から持ち上げられて、
背の高い彼に高く抱えあげられた浮遊感。
思わず息を飲んだ。
下で暖かく香る穏やかな笑みが美しい。
「全部君だけにしか感じない。いや、松乃には感謝は大いに感じるかな。
俺、君を一目見てから頭から離れてくれないんだ。
俺は、あの日の神楽舞踊を見て初めて心が動いたんだ。」
子供のままで止まってしまった心は、濁流の様に押し寄せる感情に、湧き上がる喜びを抑えきれず言葉として溢れているようだった。
それが見て取れて
芳しくて
美しくて
涙となってわたしから溢れた。
「おやおや、綺麗な涙だね。」
うっとりした声。わたしの涙が童磨さんの頬にひとつ落ちてもそれを喜んでいるかのよう。
「そんな感情、綺麗な感情わたしに感じてくださるの?」
「綺麗なのかな?分からないけど、でも、凄く嬉しいんだ。
こんなの初めてって思うからかな?
菖蒲ちゃんも笑ってくれてるからかな?」
キラキラした感情は少年のようで凄く眩しく映ったの。
手をあなたに伸ばしたら下ろすように抱きしめられて暖かかった。
「ねぇ、菖蒲ちゃん。今、心がすごく暖かいんだ。
どうしてだろう。
俺の中に取り込みたいんじゃないんだけど、
ずっとこうしていたいな。」
「菖蒲ちゃん。俺には無かった感情というものを教えてくれたのが君でよかった。
大好きだよ。どうしようもないくらい。」
心からの悦びと、背徳の愛への後ろめたさが混じって罪に狂う。
許されなくても、今だけは......
こうしていたい。
「わたしも...。」
本音がホロホロと出てしまうのは優しい月明かりのせいにしてしまいたい。