第4章 泥から咲いた蓮のように
今までは、舞を踊ればその感想を聞いて、わたしの何かしらを誉めるだけ。
こうやって並んで歩くこともなければ、それ意外の話をこの人から聞いたことなかったのかもしれない。
爪が長く、傷つけてはいけないという想いからか、手先は上品すぎる動きを成して美しいと思ってしまう。
繋がれて引き導く手の感触に心臓の高鳴りが収まりそうにない。
「ねぇ、菖蒲ちゃん。」
「はい....」
「君、本当に18歳なの?」
「え......?」
唐突に聞かれる質問に困惑した。
そんなの、他の誰からも言われたことがない。わたしが過去世をおぼえているのを知ってる人は他に誰もいない。
「歳も体も間違いなく18ですよ。」
「今、少し考えたね?目が上の方に泳いでいたよ?」
「よくご覧になっているのですね。でも、言ってることに間違いは無いのです。
よくは説明しかねます。」
「そうか......。なら、それ以上は聞かないよ。」
本当にそれ以上は聞くつもりもないらしく、彼はまた正面を向いたまま歩き出した。
「菖蒲ちゃんは、達観してて、世の中の理を全て熟知しているように思ったのだよ。
だからといって人を見下しもしない。
欲しいものが目の前にあるものに気づかない人間を、見ようとしない人間を憂いているようにも見える。
それを見ようとしているものに優しく光を照らすような子だ。」
慈しむようにわたしを見る瞳は月の光を受けて七色に見せる。
夜の碧に少し冷たい風が吹く。肌への当たりが優しく感じて、心の奥を熱が燻らすように言葉が沁みた。
「わたしはそんなに綺麗な心ではないです。」
「少なくとも俺には、己の志と誇りをもって奢りもなく凛々しくある君が、これまで出会った者たちとは全く違って見える。
それだから、君の演舞は美しく映るんだ。
そうじゃなければ、あの日、君の踊る姿に見惚れやしない。」
「童磨さん.....。」
わたしの頬に伸びた手は、ゆっくりと撫でるように包んで、わたしの目の中の奥にある心を覗き込むように見つめてくる。
ひんやりして冷たい感触なのに、心がどうしようもなく熱いから、体温が上がったような錯覚がする。