第1章 神宮祭りの舞姫
「師範。今日もありがとう御座いました。」
「菖蒲ちゃん。お疲れ様。今年も素晴らしい躍りだったわ!
来年もまた選ばれるように頑張っていきましょう!」
「はい!よろしくお願いします。」
正月の朝
今年も無事正月の祭りを終えた。
支度部屋を出て、神社へ参拝し、今年の抱負を誓った。
”このままもっと神楽舞踊を極めてまいります”と。
躍りだけがわたしの生業であり、生き甲斐であり全てだ。
両親も親族も鬼に殺されて師範に弟子として住まわせてもらったのは5歳の頃。そこから血のにじむ努力を重ね師範の資格を取ったばかりだ。
当時から神童と持て囃されては、嫉妬で泥水を飲まされるような酷いいじめも暴力もあった。
仕返しはしない。
みっともないから。
あの子達を哀れんで
同じ分類になりたくないから。
容姿は舞踊のために都合が良いだけ。
容姿と舞踊以外わたしは彼女たちのような"普通"を何一つ持ってない。
他人の芝生は青く見えるとはよくいったもの。
だけどわたしはそんな"哀れな人たち"に全く興味がない。
大好きなのは師範と、身の回りのお世話をしてくださる人だけ。
ただ、マンネリ化した世の中が色がないようなものにしか見えない。
踊っていると、全ての景色がその一瞬だけ豊かになる。
わたしは踊ること以外楽しみもしらない。
世間の色恋なんて絵空事。
こんな冷めた女を嫁になんて物好きもいない。
色目使ってくる男らも
所詮はわたし自身を見ちゃいない。
わたしがそんなことを言えるのはこの魂の輪廻転生を5回ほど記憶したまま生きているから。
少しずつ人生の出来事や環境が良くはなってるけど、毎回少ししか変わらないない自分の人生と性格と環境にもう飽きてきた。
ただ躍りだけ踊れれば良いのに。
そんなことをいつも思う。
参拝が終わってから、稽古道具を抱えて参道を通り最近一人暮らしを始めた我が家への帰路へつく。