第4章 泥から咲いた蓮のように
童磨を探したい気持ちを無理矢理押さえ込み、控え室に戻った菖蒲。
姿見の鏡の前に立ち深呼吸した。
真剣な眼差しの奥で、最近の"腕が上がった"と言われている『舞』の本質を確かめる。
自分が踊れているのは、自分の中から込み上げるものなのだろうか。
感情を全て抜きにした、無の境地であの舞を踊りきれるだろうかと。
もし、"彼"がいないところで、今のように沸き上がる気持ちを起こして舞えるだろうか……
否だ。
感情を操らねば、感情に操られている自分では演じ舞うことは出来っこない。
後者のようでは玄人ではない。
結論、わたしはまだ、舞を極めた者ではない。
そんな思いをぐるぐると巡らせて、されるがままに着物を脱いだ。
手に取った油で化粧を溶かしマーブル色になった醜い顔は、自分の心の色のように見えた。
事件が己に緊張という爆薬を与えたことであのように舞えたのならまだ良かった。
でも、菖蒲は、あの暖かい視線に心の温もりを感じてそこの力が開いたのを感じていた。
それは、何を意味するか、
解っているのに、言葉にしたくないのだ。
心臓がぐっと掴まれたように苦しい。言葉にしてくれと叫ぶように。
悶々とした胸の内を悟られてもいけない。
相手が人外で、人間の天敵であり、流派に逆らう新興宗教の教祖であるからこそ……。
「菖蒲さん、どうされましたか?」
不意に声をかけられてビクッと肩が震えた。
「いえ、ごめんなさい。何でもないの……。」
「でも、汗が……。」
「早くしてちょうだい。今日は少し早く休みたいの……。」
少しきつく言ってしまったことに後悔して、梅子にまた『仮面の笑顔』を無理矢理つくって見せたのだった。