第4章 泥から咲いた蓮のように
演舞が終わって舞台袖に入ると、童磨を探すために廊下に出ようとした。
しかしそれも叶わず、心配そうに駆け寄ってきた梅子が声をかけた。
「菖蒲さん、危ないところ何も出来ず申し訳ございません。」
声をかけてもらったことで、少し冷静になれた菖蒲は、このまま急いていっては、童磨の配慮を無下にするのではと思い止まった。
追いかけられないことに少し落胆したものの、心配して駆けつけてきた梅子にその表情を見せまいと笑顔を向ける。
「いいの。助けてもらったから……。
梅子さん、裏方で大きな音がしたから心配しました。何事もなさそうで良かった……。」
「菖蒲さんがお怪我なく良かったです。し、しかも、助けてくださった方、稀に見ぬ上背で体格のよろしい方でしたね。」
わずかに頬を染める梅子も、恐らくは童磨の事をよく思った様子。
「そうね……、ちゃんとお礼したかったのにもうどこかに行ってしまったようで……。」
「そうでしたか……。」
また、教会に行く予定もあるのに、なぜか落胆する気持ちが押さえられなく、胸の奥にツンと染みるような痛みを感じた。
「行きましょ?とりあえずは今日はこちらで泊まって行くのです。お着替えしなくては!」
梅子は笑顔で背中を押しながら、菖蒲を控え室に行くよう促される。
その己を励ますような振る舞いに、自分の気持ちが隠せてないのだと悟ると、小さなため息を自分に向かって吐いたのだった。