第4章 泥から咲いた蓮のように
菖蒲が深く頭を下げると
会場は拍手喝采。口笛を吹く者もいた。
「皆様方の御厚意に甘んじまして、仕切り直しとさせていただきます。皆様方の更なる御発展、繁盛を祈願させていただきます。」
そういって顔をあげて会場を見回すようにすると、童磨はハットを被って腕組みし、微笑んでいた。
彼がそこにいることに疑問はあれど、菖蒲は、また、助けて貰えたという事実と気遣いに、言い表せぬ心の暖かさを感じた。
先ほどの恐怖はなかったかのように、しっかりと前を見据えて立ち上がる。
そこからの菖蒲の舞は、水を得た魚のように、優雅に大きく……、
それは、精霊にとりつかれた神の使者のようだった。
全てを踊りきり、観衆に手をついたとき
深く頭を下げた頭を上げられないほどに、
割れんばかりの拍手の音が長く鳴り響く。
普段、舞台にいるときに決して流れない汗が額に滲んだ。
そして、胸の鼓動が早いのは
先ほどの舞と今の舞が
自分のなかで格段に違うと感じたから。
こんなにも別人になったかのように気持ちが踊りに入ったのは、
あの"鬼(ヒト)"がここにいて、見てくれたのを知ったから。
頭を上げて、暖かい視線を感じた場所を見た。
そこにいたはずの童磨は
もう、そこにはいなかった。