第4章 泥から咲いた蓮のように
あと、何拍子かで舞の全てが終わる
その時だった。
ドン!
という大きな物音の後、バツン!!
と電気がショートする音とともに暗転。
会場は闇になった。
あたりは騒然となる。
「何があった!!」
「大きい音がしたぞ!?」
「明かりはどうした!」
会場は一気にパニックに陥った。
「落ち着いてください!」
「落ち着いてください!」
事態を納めるべく警備員の叫び声も響く。
菖蒲までもがその状況に困惑し躍りの手を止めた。
事態は目まぐるしく変わった。
舞台袖で控えていたはずの梅子がこちらに来ない。
器楽隊は楽器を守るために動けない。
裏方の人も原因究明で奔走している。
菖蒲の周りにはだれもいなかった。
「菖蒲ちゃん、逃げろ!」
実田の叫び声が聞こえた。
(逃げろって何処へ?)
一気に戦慄めいた雰囲気に、菖蒲は焦りを感じた。
そして、実田の叫んだとおりに
次の瞬間、強い殺意でこちらに向かってくる何かを感じる。
「霧滝菖蒲!!終わりだー!!」
すぐ近くで叫びながら突進する影と、追う警備員の足音。
もうだめかもしれない!
そう強く思って身を屈めたそのときだった。
「おやおや、皆が楽しんでいるところをぶち壊しにするのかい?
いけない子だねぇ。」
聞きなれた声と飄々(ヒョウヒョウ)とした話し方、嗅ぎなれた匂い……、しかも、怒気を含んだ匂いで、驚いて顔をあげる。
「俺は、この子のファンの一人なんだよ。
彼女をここで終わらせないでくれるかい?」
白橡色の長髪が、質のいい黒の背広に垂れていた。
人に擬態した童磨の姿だった。