第4章 泥から咲いた蓮のように
質素な洗練された空間は、他の装飾などなくとも荘厳さを醸し出す。
拍手の雨は、器楽隊がそれぞれの楽器を構えた瞬間にサッとやみ、空気が張りつめる。
それを合図に、菖蒲の中に神が降りたように構えた。
目の肥えた上流階級の人間は、毎年この舞台で舞う神楽舞を見てきた人達だ。
そんな玄人のような人達の前で、彼らより歳も若い菖蒲が踊る。
だが彼女にはそこに一切の迷いもない。
器楽隊が奏で、詠われる祝詞がその場を神聖な空気にする。
祝詞と雅楽を纏った調和の中で菖蒲が踊ると、一層天界に導かれるように観客を引き込んだ。
そして時より見せる、目弾きで飾られた流し目が年齢以上の色香を帯びて会場の人間を魅了した。
何よりも、我が育ての師範より神童と言わしめたその細部まで息がかかったような繊細さ、優雅さは人の領域ではない。
大の大人ももはや、菖蒲の舞に釘付けで、息も忘れるくらい見惚れていた。
曲の終盤に差し掛かる。
大きく大輪の花のごとく、艶やかに舞う。
それは、菖蒲の年齢など忘れてしまうほどに老成された、洗練された、息をつく間もないほどに神々しいもの。
もはやだれも、菖蒲の舞を蔑む人はいなかった。
誰もが舞に酔いしれる。
全てが菖蒲に集中し、周りを見るものは存在し得たのだろうか。