第1章 神宮祭りの舞姫
1週間ほど前。
ここは万世極楽教 本寺院
教祖でありながら、その正体は鬼。
そして鬼の中の精鋭十二鬼月の"上弦の弐"として君臨する男、童磨がその寺院にいた。
「琴葉がいなくなってもう5年になりますね。」
最高幹部であり世話役の松乃はそう呟いた。
松乃は度々こうして休憩の時間は童磨と共に話をするほど信頼関係がある人物だ。
「あぁ、もうそんなに経っちゃったんだ。
昨日のことみたいだけど時が経つのは早いね……。」
寂しそうに呟いて見せるがそれも演技。
そしてその琴葉の命を奪ったのは童磨自身。
人肉を食らう姿を見られたことで罵倒し逃げていったことで食い殺したのだ。
松乃は齢46にして、入信してから25年。配下として童磨に支えたのは15年程。
それくらい一緒にいると、鬼ということには気づいており彼の信者食いも黙認している。何なら感情の起伏がほとんど感じられないことも解っていた。
しかしながら心の底ではその感情の起伏の無さを心配もしており琴葉なら感情を動かせると思っていたのだ。
「凄くお心が綺麗なお方でした。彼女の独特な指切りの歌が今も思い起こされます。」
「そうだね。年老いるまで一緒にいたいなって思っていたのに残念だよ。」
「存じておりました。とても大切にされていましたしね。」
「松乃は俺の姉ちゃんかお袋みたいだよね。そういうところいつもしっかり見てる。」
「有難うございます。」
そとの明るさはもうすぐ日没。
年末ということもあって日中は本殿で信者たちが年末の大掃除に精を出していた。
今では殆どが帰路について静まり返っていた。
松乃は最近信者でも話題が良く上がる娘の事を思い出した。
「ところで教祖様、最近神楽舞踊を舞う若い女性が神々しく、精霊のような演舞をされると評判でございます。
ご存じですか?」
「神楽舞踊?へぇ……、面白そうな子だね。」
自身も舞踊が趣味であるがゆえに、松乃の話に興味をもった。