第3章 風変わりな思考
さりげなく頬にある手を離れさせても、名残惜しそうに立ち上がらせた手はそのままで、支度部屋まで連れていかれる。
その様子を見ていた器楽隊は
(教祖様がおなごにベッタリではないか。)
(あれほどに美しい方はそうそうおりません。)
(しかもおなごの方も、満更ではないのでは?これはもしや……嫁御になられるのでは?)
と心の中でそれぞれ思っていたが、誰も悪く思うものはなかった。
支度部屋まで手を引く流れも厭らしさを感じないほど自然な流れで、菖蒲はまたしてもされるがままだった。
松乃はその様子を微笑ましく見ていた。
(教祖様は片時も目を離したくないようなご様子。霧滝様はおっとりとされた方でお優しいのでしょう。
人前だから気を遣われてるのかしら?)
着替えを済ませてからも童磨は菖蒲の側を離れず、手を引いて歩いた。
人が多い本館や住み込みの信者が住まう出入口ではなく幹部しか通らない所へ彼女を通すのも、信者から向けられる好奇な目を避けるため。
まだ日は高く、夕暮れに旅館へつくようにとの事。
「あぁ、名残惜しいね。菖蒲ちゃん。こっちを向いておくれ。」
言われるがままに童磨の方を見る。
その虹色の瞳がじっと、何かを探すように瞳を覗き込む。
「美しい。神秘的だ。汚いところが見当たらない。綺麗な心だね……。
そして強くて、君は頭がいい。
でもその心は豊かだけど憂いに満ちている。」
「君は、神職が些かお似合いのようで天職だろう。
そのままの君でいることを俺は望むよ。
君は自立と自律ができている。それに人のあるがままに触れない。
いつか、たっぷり時間があるときに沢山話が聞きたいね。」
どうしてわたしをそこまで見ているんだろう。
感情などついさっき知ったと言う心で
わたし自身を見てくれる言葉。
感情がある人間ですらかけてこない。
大抵人は自分の事で精一杯。
宗教家だって自分の事で一生懸命な人が多いというのに。