第3章 風変わりな思考
終わる刻限を知らせたのはやはり側近の松乃の戸を叩く音。
「教祖様、お楽しみのところ誠に申し上げにくいのですが、霧滝様の次のお仕事の刻限が近くなっております。」
言いにくそうな申し訳ない顔を向ける松乃に童磨が顔を向けて残念そうな顔をする。
「そうか……。時が過ぎるのは早すぎるものだね。」
そういって立ち上がり、菖蒲の方をみる。
聞き分けよく振る舞わねばとひとつ短く息を吐いた。
「でも、次のお仕事が控えてるなら仕方ないか……。」
その寂しそうな声を聞きながら、器楽隊も菖蒲、松乃も童磨の方へ手をついて頭を垂れていた。
「菖蒲ちゃん、頭をあげておくれ?
今日は来てくれて嬉しかったよ。
明日にでもまた来て欲しいくらいだ……。」
菖蒲の前に歩み寄り、顎を優しく掬うと名残惜しそうな気持ちを抑える笑顔で虹色の瞳を向けた。
その瞳の感情の色と仕草に不覚にも心臓が跳ねるが、平然を装っていつも通りの柔らかい顔を心がけた。
「そこまで楽しんでいただけたのなら至極光栄です。
明日は少し早い時間からお仕事が入っておりまして、明後日ならば都合が空いております。
わたしも楽しく踊らせていただいたので、少し早めに来れるようにしますね。」
その言葉に目が喜びを含んだ優しいものとなり、菖蒲自身も、その感情の変化を自身が一番信頼できる嗅覚で感じとり、それに驚いて思わず目を見開いてしまった。
ん?とでも言いたげに首をかしげるので、誤魔化すように笑いかければ、大きい手のひらで頬を包まれた。
「君は一等に可愛らしい。
君は俺の動かなかった心を意図も簡単に動かしてしまう。
またここにくるのを待っているよ。」
その言動に思わず顔を赤らめ俯くと、触れてる手がわずかに震えて笑っているのを感じた。
(この方は言葉と動作で人の心をかき乱すようです。やはり教祖というお立場が勤まるのもそういう天性があるからなのでしょう。
気を付けねば心は持っていかれそう。)
触れられた手は払えずに、しかも流れるようにもう片方の手で手を引かれて立たされた。