第3章 風変わりな思考
恭しく頭を下げ、表をあげると天女のごとく若葉色と薄桃色を主とした淡い色彩の衣装に、淡白く塗られた顔に深紅の唇と眉尻が引き立つ。
トンと鼓の合図で立ち上がり、笛がなれば曲と共にその場が菖蒲の世界へと仕立て上げられた。
空気感がまるで違う
作った表情や動きではない
彼女自身が作り出す舞台は
そこには他人に押し付けるものなど存在しない。
まるで人間ではないかのような自然界の一部。
彼女一人で、動く、聞こえる、感じる絵画のよう。
全てを味方につけて決して自己主張することもないのに、かえってその様が、彼女を演舞の中心として引き立てる。
自然の美の中に引き込まれるような感覚
彼女の何がこのような舞を踊らせるのだろう。
扇子のしなやかな動きも、表情も、足運びも無駄のない優雅なもの
一瞬流し目と視線が絡むとふわりと笑みが返ってくる。
それは、滴る雫に水面が揺れるように儚く美しい。
1曲目が終わって頭を垂れても動かさせた感情にただ打ち振るえていた。
「なんて美しい。他の舞も、大衆の舞踊も踊れるのかい?
是非見てみたい。」
「舞なら何でも踊れます。こちらは正式な場ではございませんので何なりとお申し付けくださいませ。
お望みのままに舞いましょう。」
童磨が用意していた自分が好きな舞踊曲も神聖ながらも美しく、しかし神楽舞踊と違ってどこか楽しげに踊る様子に、
時が経つのを忘れて、約束していた時間はあっという間に過ぎていった。