第3章 風変わりな思考
約束の刻限どおり、頭巾を被った姿で菖蒲は寺院の戸を叩いた。
中からは信者の一人なのか、30歳前後の男性が出てきて、菖蒲だと気づくと頬を赤らめて硬直してしまった。
無理もない。
友人として招待しているわけで、知っているのは先日寺院に居合わせたものだけ。
噂にはなっていたが、本当にこの時間に現れるとは思っていない者が多かった。
「童磨さんはいらっしゃいますか?」
努めて何事ないように普通に振る舞って見せるも、男性はドギマギしている様子で
「え、いや、あ、ぁ、は、はい!」
と、真っ赤に頬を染めて慌てて中に入っていった。
暫くすると、松乃が出てきて、先日のごとく笑顔で出迎えた。
「 霧滝 様、教祖様が部屋でお待ちです。ご案内いたします。」
松乃の後ろを着いていき案内されたのは、
童磨が舞踊を楽しむために作ったという部屋。
戸を叩いて菖蒲が来たことを告げると、足音が近づき引戸が開けられ、童磨自らが菖蒲を出迎えた。
「やぁやぁ、待ちかねていたよ!
さぁ、お入り。
君が踊りやすいように少し部屋を改造したんだ。」
花が咲いたような声で菖蒲の肩を抱き、招き入れた。
部屋には奏者が5人、琴、篠笛、尺八、鼓、鈴と揃えられていて、譜面まで用意がされていた。
部屋の装飾も神楽を踊るに相応しく、菖蒲が着替えて舞台に上がるだけでその場が完成するまでに仕上がっていた。
「来るだけでいいと仰ってましたが、ここまで揃えていただけるなんて感激です。
よくあの場をご覧になってたのですね。」
あまりの準備の良さに、感激して嬉しそうに話す様子に童磨は得意気になっていた。
「喜んで貰えて嬉しいよ。着替える部屋に連れていくから準備をしておいで。」
と奥の部屋へと案内され、支度を済ませて出てくると、舞台の正面に儲けられた席に頬杖をついて待っていた。
「さぁ、菖蒲ちゃんと器楽隊の君たち、始めておくれ。」
その合図で、菖蒲は指三本を床につけ頭を垂れた。
「本日はこのような場を儲けていただきまして有難うございます。
神楽舞の義、霧滝 菖蒲が勤めさせていただきます。」