第15章 隠蓮慕
心が華やぐ感じがするのは美しい菖蒲を俺好みに着飾らせて
彼女すら満足気に楽しそうに受け入れるのを見ていて
それを快楽だと感覚が受け入れているからだろう。
店員は、どこか、俺らに対し、ぎこちない様子を見せながらも、俺の言うとおりに、思い通りに菖蒲を彩ってくれる。
次々と帯締め、半襟、そして様々な髪飾りを提案する店員たちは、褒めれば信者と同じように反応を見せた。
全て俺が選んだものにそでを通していく菖蒲。
彼女は表情一つ変えずに、自分の好みを一つも言わず、
俺が指定したのを同じように受け入れるだけ。
少し…
何だかつまらないような…。
少しはワガママなど強気でいって欲しいのだが…。
以前からどこか達観しているように見える彼女は
譲れないところはあったとしても、それは信念であって
己の好みでワガママに言うことはないのだ。
何故だろうね…
こうして、簪を送っても、穏やかに笑みを向けて
俺が欲しい反応だけをくれる。
驚いた顔を見てみたい。
とびきりに喜ぶ顔も…
もっと無邪気な子供のような姿も…
そう思って彼女の手を引いていく。
向かったのは射的や輪投げの屋台。
俺は視力もいいし、強いから景品を取ることは造作でもない。
安っぽいガラス細工の指輪や、小さなくまのぬいぐるみ。
菖蒲がその景品が欲しいとか、そういったのは特に考えず彼女の手に積み上げた。
「他に小さい子もおります。私はそんなに必要ではありません」
やれやれと言った顔。
でも、どうしてくすぐったいような感じがするのだろう。
どこか見透かしてくるような落ち着いた目は
鬼であり、上弦でもあり、人をも凌駕する強さを持っていたとしても
取り込まれてしまいそうに感じることがある。
「次は何をしようか…?」
気付けば2時間ほどは軽く経ってしまっている。
舞踊のせいか体力がある彼女は軟弱な信者たちと比べれば、まだそこまで疲れていないようにも思えた。
人が食べるものを食べてみれば、驚いてくれるだろうか?
ちょっとした好奇心だ。
目の前を通り過ぎた者たちが手に持っていた団子が目に入り、それを食べてみよう。
ふとそう思いついた。
鬼になってすぐ以来口にしなくなったというのに、何とか彼女から見たことのない表情を引き出そうとする俺が滑稽に思える。