第15章 隠蓮慕
「こちらの鮮やかな紫に大きな白いショウブの柄はいかがでしょう?」
「こうやって、赤黒白の帯を合わせますと…」
普段は伝統的な柄の着物しか着用する機会がなかったためか、菖蒲は目を輝かせる。
「素敵ですね…」
「お連れの方もこちらはお喜びになるかと思いますよ」
そう言われて、店員に手を引かれて仕切りの外に出る。
「お待たせいたしました。1着目、こちらいかがでしょうか」
気分が上がったように身を乗り出すと、「おおぉ」と小さく歓声を上げる。
「流石は店員だね。その色はまさに菖蒲の肌の色を引き立てる。それに柄のセンスもいいじゃないか…!菖蒲は気に入ったかい?」
「はい」
「では、それは決まりだね。次を見せてくれるかい?」
「畏まりました」
次から次に着せ替えられる中、童磨はその様子を最高の娯楽のように眺めた。
時折、店員を制して「これは野暮だ」「あれは色が強すぎる」と厳しく意見を述べ、気に入ったものがあれば菖蒲にも尋ねた。
くすんだ白地に黒い線紅い花柄の着物
常盤色に白と黄色の幾何学模様の着物
それぞれに合う簪や帯、小物など…
次々と気に召したものの購入を決めていった。
「最後に、これを一つ貰うよ」
それは、先ほど菖蒲が目を惹かれた品。
店頭で最も繊細な光を放つ、透き通ったガラス玉の髪飾りを宛がうと、満足気に笑みを浮かべる。
「これだね。今までで一等に#NAME1#の黒髪を引き立てる」
「お連れ様の仰る通りですわ!流石お目が高こうございます!」
代金は童磨によって豪勢に支払われ、店員はたいそう喜び、二人を見送った。
後日、松乃が受け取りに来る手はずになっている。
「沢山、ありがとうございます」
「いいよ。楽しかったし」
「それより、おいで…」
「はい…」
店を出てすぐ、人の流れを外れて立ち止まる。
「ほら、こっちを向いて。今つけてあげる」
先ほど購入した髪飾りを手にすると、童磨は子どものように目を輝かせ、菖蒲の隣に立った。
童磨は、愛おしそうに、菖蒲の結わえた髪に、新しいガラス玉の髪飾りを挿し加えた。