第15章 隠蓮慕
「では、こうしましょうか?」
菖蒲は、童磨が選んだものに重ねるように、黒のレース素材の道行(みちゆき)を重ねた。
「流石、菖蒲様ですね。ハイカラながら落ち着いた感じになったと思います」
童磨も満足したようで表情が華やいだ。
「しかしながらですね、まだ、松乃が一番おすすめさせていただきたいものがございます」
とっておきを秘蔵していたと自信ありげに二人の前に包まれたままの着物を差し出す。
「菖蒲様の美しさを際立たせるものだと思うておりますので、童磨様もお気に召すと思いますよ」
そう言いながら、包みを解きひろげてみせると夜の闇を深く吸い込んだような漆黒の着物だった。
そこに、血潮のように鮮やかな紅の彼岸花が、妖しく、そして執拗に咲き乱れる。
そこに、血潮のように鮮やかな紅の彼岸花が、妖しく、そして執拗に咲き乱れる。
童磨は、その着物に魅入られたように目を見張った。
「これは…美しいね。松乃、よくこんなものを持っていたね」
童磨が、「美しい」と感情を込めて口にしたのは、菖蒲以外のものに対してでは初めてのことかもしれない。
その着物には、現実離れした、禍々しいほどの吸引力があった。
しかし、童磨はその柄を凝視した瞬間、ハッと動きを止めた。
______彼岸花…か………。
童磨の心には、主君である無惨の「青い彼岸花」への底知れない渇望が浮かび上がった。
____あれ?これって、鬼殺隊は知っているんだっけ?
童磨の顔から、一瞬にしてすべての愛想と感情が消え失せる。松乃はその様子には気づかないようで、楽しそうに帯を合わせたりしているが、その表情は絶対的な恐怖を纏った、見慣れぬ鬼の顔。
_____なぜ、松乃はこれを選んだ?
菖蒲の送迎のついでに出来れば探して欲しいと話をしたことがある。しかし、なぜ必要かまでは話をしていない。
___俺がそれが好きだと思ってならば…
________松乃に関しては考えすぎだろう。
そう思いなおし、隣にいた菖蒲を見下ろす。
直接的な関係もなければ色も違う。ならば本人が気に入れば十分だろう。
___おや?