第15章 隠蓮慕
日が明けた後、松乃に二人で出かける旨を伝えると、菖蒲の方を見て正気かと心配されたが、視線で訴えるとやむなしと了承された。
心配をさせたようだったが、昼頃になると、また二人の前に大きな荷物と共に訪れた。
「童磨様が菖蒲様にお選びになりそうなものと、菖蒲様が気になさるであろうことを鑑みまして、差し出がましいと存じながらも、勝手ながら松乃が着物を選んでまいりました」
少し、恥ずかしそうにしているのは、反対しながらも二人が仲良く連れ立って出かけると聞いて微笑ましく思ってしまった気持ちが勝ってしまったから。
更に恥ずかしそうに縮こまり、手と頭を畳にこすりつけるように頭を下げ、恥ずかしさを押し切るように早口で話す。
「以前、菖蒲様に婦人画報をお持ち致した際、気に入られているご様子だったものを集めていたのです…
はぁ…申し訳ございません。お恥ずかしながら…お二人がお出かけになるのを…その…」
なおも恥ずかしそうにして頭を上げない松乃を菖蒲が抱きしめる。
「松乃さんは、母であり姉のようですね」
「いえ、母や姉はこのような…あ、あの…」
「いいえ。ありがとうございます」
その様子を満足気に見ていた童磨は、以前にもあった松乃の様子に声を出して笑っていた。
「いや、本当に…。松乃はお袋みたいだろう?以前にも着物を選んでもらったことがあるが、寸法も好みも申し分がないのだよ。いつも助かるよ。松乃…」
「いえ、もったいのうございます」
童磨は、その松乃の純粋な献身に満足そうな笑みを浮かべ、菖蒲はその温かい心遣いに感謝した。
すぐに松乃と共に用意した品々を部屋に広げ、2人が夜の街へ出かける装いを選び始める。
童磨は、「君にはこういう大胆な色がいい」と、明るい山吹色と大胆な矢絣(やがすり)の柄の着物を、遊び戯れるように菖蒲に押し付けた。
「こちらは、少し目立ちませんか?」
「俺が目立たなければいい話じゃないか…」
「いいえ、菖蒲様は普段の装いの時でも振り返る方が多いのですよ!」
松乃も普段、菖蒲の仕事に同伴するのでよく見ているのだと菖蒲の意見に賛同する。
「えぇ…、ダメかい?」
菖蒲は、その愛らしい駄々っ子のような仕草に、抗えないことを悟った。