第15章 隠蓮慕
(※『信者喰らい』の描写をとばしたい方→P188へ)
数日後の深夜。
万世極楽教の広間の奥。
今宵、説法の後に選ばれた者だけが通される『寂静の間』には一人の若い女性信者が童磨に救済の嘆願に来ていた。
女性は嗚咽を漏らしながら、教祖である童磨に対して胸の内を打ち明ける。
「教祖様には菖蒲様という、とても教祖様に相応しい女性がいらっしゃいますし、教祖様がとても大切にされていらっしゃるのも存じております…」
童磨は、いつもの慈愛に満ちた無感情な笑みを湛えながらも、内心、「また、同じようなことを言う者が来たなぁ」と考えていた。
そうとも知らず、さめざめと涙をこぼしながら、袖口で涙をぬぐい、女性は話を続ける。
「だけど、わたしは教祖様を愛してしまい、菖蒲様のようなご存在がいなければと…
申し訳ございません…本当に、考えてはならぬことなのですが…あってはならぬことなのですが…」
言葉に詰まり、ただ泣くだけの女性の浅薄な言葉に軽蔑の念を抱いていた。
____菖蒲が邪魔だって、よく目の前にいる当事者にそのようなことが言えたものだ…。
_____浅はかだね…。愚かだねぇ…。救済に値しないほどだ…。
務めとして笑みを崩さないものの、
この浅薄な命を早く片付けたいという苛立ちが募る。
「この良からぬ想いを何度も鎮めようとするのですが、できないのです!!わたし、ずっと、ずっと…凄く苦しくて…!」
なおも、聞かされる当事者の心などつゆ知らず苦しみを吐露する女性の話をそれ以上聞いてやる必要がないという思いに至った童磨は女性に手招きをする。
「ほら…おいで…」
真意などまるで気にする素振りもなく、女性は恋に焦がれた者へと一番近くに行けることにたいそう感激している様子である。
遠慮もせず、手招きに従い、童磨の元へ行くと、両手を広げられ座るように言われ、従順に従った。
童磨は、そのまま静かに女性を横抱きにする。
その眼は感涙を幾筋にも流し、まるで恋が成就したかのような輝きを放っていた。
_____なんと御目出度い…。可哀そうに…。本当に頭が足りない子だ…。
しかし、慈悲の笑みを浮かべてやるのは、腕の中の獲物が今生最期に見るものであるからこそ。
教祖としての務めだと最上級の慈悲と哀れみの笑みを向けて語り掛けた。