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極楽浄土【鬼滅の刃/童磨】

第15章 隠蓮慕




「そうか、そうか。苦しいね、可哀想に…。
大丈夫、その愛も苦しみも、すべて俺が極楽へ連れて行ってあげるからね…」

彼の慈愛に満ちた言葉。
しかし、そこには感情などは込められてはいない。

その真意などよりも、己が置かれた状況、掛けられた言葉に女性は安堵の表情を浮かべた。

___俺の中で、もっとその頭を賢く使うのだよ…。

__無理だろうし、来世も地獄も天国も”死んだら”何もないんだけどね…。

童磨は、その顔を覗き込み、囁く。

「よく、打ち明けてくれたね。言いにくかっただろうに…」

「…ありがとう。さあ、口を開けてごらん?」

その声に素直に従い、女性が感謝と期待に瞳を潤ませたまま瞼を閉じ、祈りの手を結んだ。

僅かに唇を開けた瞬間。

童磨は、口づけるような素振りをし、顔に近づけるも、寸のところで止まり、その唇の隙間に微かに息を吐いた。

極小の氷の結晶が絶対零度の空気を纏い、その開いた口元から音もなく女性の呼吸器に流れ込む。一瞬にして体内の水分が凍りつき、彼女の顔は感謝と安堵の表情を貼り付けたまま、白く濁った。

ゴキゴキッ

部屋中に不気味に鳴り響く、骨が砕ける音と凍結の音。

女性は苦痛の表情を浮かべる間もなく、命は教祖の腕の中で静かに絶たれた。


――ああ、満たされない。


それでも
信者を体内に喰らい収めることは教祖として鬼としての務め。

奥の『開かずの間』に遺体を持ち込もうと抱えたまま立ち上がった刹那、足音が聞こえたことで動きを止める。


___おや?他に信者など呼ぶ予定があっただろうか…?

__いや、違う。


月光が映す青白い闇にくっきりと人の影が浮かび、
その肩は、緊張から上下しているようだった。


「おやおや…。こんばんわ。俺も気づかなかったよ。
鼠が一匹紛れ込んでいたようだね…」


冷気を操り、障子をサッと開くと、驚いた表情をした黒い詰襟の女がカタカタと刀を持つ手を震わせて立っている。


「こんな夜更けに、誰の許可を得て入ってきたのかな?
潜入調査で来てたのかな…?ご苦労様だね。」

「い…妹の…」

「ごめんね…。聞いてやれないよ?」

「信者たちは今いい夢を見ているだろうから、起こしたくないのだよ…」
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