第15章 隠蓮慕
鬼になると決めたのは己の意思だ。
それは、教祖としての救済を
『人喰らい』に見い出したからで
それを無惨様によって許可され
俺は鬼になった。
故に『人喰らい』は
信者たちを俺という体や魂の中で
一生苦しまずに共に『極楽浄土』で生きてもらうための
教祖としての『導き』であり『救済』の儀式
そして矜持なのだ。
強く有らねばならぬのは
鬼という弱肉強食・同族嫌悪の中で
俺という『極楽浄土』としての器を永遠に保つため。
だけど、俺の器はそれでも
俺の意識や心の器は分離して『菖蒲』の中にある。
殺せない
鬼にもできない
老いを止めることも
死を止めることも
君を目の前にして俺は無力だ。
無惨様の声が聞こえようとも
これだけは唯一出来ぬこと。
その事実がどれほど脆弱かもわかっていても
覆す術を知らない。
ただ、俺が生き続けるために
胃液に満ちているのにもかかわらず、
生理的な拒食の嘔吐に抗いながらも
喰らい続けていくよ。
お遊びだと思っていた恋のせい
いいや、君を見つけて溺れた俺の業。
甘んじて受け入れよう
この長く退屈した生を華やかにしてくれた
君という命の美しさのために
(※『信者喰らい』の描写をとばしたい方→P188へ)