第14章 花爛漫
熱に酔狂した余韻を残したまま
自由の利かなくなった柔らかい熱の体を横たえて
童磨はぼぅっと己を見つめたままの菖蒲を愛でるように抱きしめた。
上下する体がまだ愛熱の冷めやらぬまま
静かにそのままに身をゆだねるのを眺めて
言い知れぬ暖かいものが心臓をくっと締め付けるのを
心地よく感じていた。
もぞもぞと動くのを許せば
己の背に回される腕
心地よい体温を隙間ないよう少し力を込めれば、また甘い吐息が鼓膜とその奥の鼓動を揺らした。
「菖蒲…」
「はい…」
「今、何を思っているのかな?」
好奇心から伺うそれは、期待にも願いにも似たものを孕んで
その声色は暖かいものだった。
菖蒲は少しの間をおいて、的確な答えを探す。
だが、心を占めていたものは、恐らく求められていた答えだろうとどこか確信があった。
「言い知れぬ充足感と悦びと暖かさ…
恐らく同じことを考えていると思います」
「そうなんだね…。同じだと、こんなにも嬉しい…。
この高鳴りは消えて欲しくないな…。」
腕の中、少しだけ笑うのを感じた。
同時にホッとしたような暖かさを纏い
菖蒲はその背に回した腕を引き寄せた。
「それも、同じです」
満ち足りた心にさらに愛の甘言を足せばそれは溢れて流れてしまうまで。
「あぁ…なんて………」
頬に触れて顔を上げられて視線が重なる。
湧き上がる感情に打ちのめされて、ふるふると揺れる虹色の瞳。
ただただ、湧き上がるものを言葉に変えて吐露するしか扱い方を知らない。
「菖蒲のその可愛い口元からは、
俺が喜ぶ言葉しか生まないのだろうね」
至福の時は
甘美で、どこまでも深い幸福に浸り
永遠を夢見てしまう。
与えられる口づけ
『愛の温度』を伴う濃密さは
甘い毒を含んだ菓子のよう
時々ちくりちくりと胸が痛むのは
限りない人間の生に伴う老いが鬼と違うそれで
わたしはもう、既に童磨さんが鬼になった歳より上になってしまっている。
振り返ろうとすれば、
すぐそこにどこまでも続く奈落。
心身の安寧を削ぐ互いの倫理の違い
教祖としての矜持と舞巫女としての矜持の違い
鬼と人
全てを持っても強烈に惹かれ合うそれは
麻薬や麻酔薬と同じようで、共に毒となりうるもの。
「もう一度…」
それはまた、麻酔薬のような甘く淡く鮮烈な夢への誘い