第14章 花爛漫
息まで奪われる激しい口づけの合間にも、
肌までたどり着こうとするその手つきは、
簪を外す時と同じく愛おしさに満ちていた。
菖蒲の一部だという衣装も乱雑には扱わず、
ひとつひとつベールをめくるよう。
純白の衣が滑り落ち、紛れ込んだ桜の鱗片がこぼれる。
露わになる白い肌をなぞる手はゆっくりと
体温を拾うように這いながら
深く深く包み込んでいく
熱に浮かされ、呼吸もままならない中、
その胸に感じるのは、童磨からのさらなる深い慈愛。
衣装を剥ぎ取られたあの時とは違う。
『神の巫女』は
かつて無感情であった童磨の感情の象徴として、
扱いなれぬ愛ゆえに丁重に扱われ
『鬼の姫』へと変えられていく儀式。
互いに、纏うものを払えば
人喰らう鬼も、愛した女の前では
『愛に囚われるただの一人の男』である。
膝に乗せられた菖蒲は
一度別れを切り出したあの日、童磨がしたように
その首筋を喰らい舌を這わす
硬い皮膚と
身体の軸なのに感じない温度
頭を撫でる手
聞こえる息遣い
「なにこれ…凄くゾクゾクするよ…」
恍惚とした声は悦びを孕んで
腰を抱く腕の力が増す。
情愛を孕んだ菖蒲のそれを受け入れて委ねて
嫌がる様子もない
そのまま愛でるように首筋をのぼり
耳に舌を這わせる
「菖蒲、今日は一段と可愛いことをするね」
女の息が荒くなるのは、胸を包む手の指先が
弱い突起を転がすように動かすから。
「いつものおかえしです」
「最高のご褒美だ」
見上げる虹色は星空のように淡い光を集めて
菖蒲は思わず息をのむ
「綺麗…」
「人から見れば悍ましいだけだろう?」
「それも全部含めて…」
白橡色の髪
柔らかい色彩ながらちゃんと男の人の硬い髪。
菖蒲はそれを美しいと思った。
まだ見ていたいのに引き寄せられて
身を焦がすほどの口づけに溺れる
どちらともなく抱き寄せて
隙間を空けないほどに重なった身体
静かに燃えるように体温が上がっていく。
春の夜の冷たい空気
童磨の温度を伴わない指先、掌
背筋をなぞって尻までの曲線を確かめるように撫でる手つきは、快楽を拾い、感覚を研ぎ澄ませていく。