第14章 花爛漫
戸を閉めて、二人の空間が約束された時、
時間も惜しくて、ただ抱きしめ合い、夜冷える体をねじ込んだ。
触れる感触と強さだけなのにどうして暖かいんだろう。
見上げれば、熱に浮かされた眼差しが少し月明りで虹色を弾いていて、それに気づいた瞬間には息が出来ないほどに唇を重ねていた。
押し付けられる情愛は多分、この鬼の生涯でわたしだけに向けられたもの。
欲しい欲しいと忙しない手は、それ以降に進むよりは
存在を確かめ刻み込むようで、渇望を感じた。
ひとしきり『わたし』を堪能した後にはわたしの顔をじっと見ては、何かを思いついたように妖しく微笑んだ。
「儀式をしよう」
「そうだな…、菖蒲が神じゃなく俺のモノになるための…」
甘やかな低い声。
手を引かれて座らされると、膝をついたあなたはわたしの頭の飾りに手を伸ばす。
髪に触れる手
引き抜かれる簪
ゆっくりと痛くないように
丁寧に箪笥の上に引かれた布の上にひとつずつ綺麗に並べていく。
「どうして、道具も大切にしてくださるの?」
ふと思ったことを聞いてみる。
彼は鬼で、わたしが知る限りは、こういう事に意味を見出すような様子はなかった。
教祖として、そういう儀式はおままごとの一環として。
わたしと一緒に居るためにしていた、人間社会での筋を通すことも、『興味』と『お遊び』の範疇だったのに。
わたしに問われて、童磨さんはその手を止めてしばらく考えているようだった。
「どうして…そうだなぁ…。初めて菖蒲ちゃんを見た時の姿と同じだから…。うぅん…、その時の君の一部のような感じがするからかな…」
最後の頸の飾りを静かに解いて、ゆっくりと布の上に置く。
もう、着物以外に取り除くものはない。
何かわたしから答えを探すように見つめてくる。
「天国も地獄も、人間の創ったおとぎ話だと思っていたけどさ…
案外、気持ちの状態をいうのかもしれないなぁ…」
「なんのお話ですか?」
脈略もない話。
ただ、童磨さんが『儀式』としてやっているこのことは、彼にとって神聖なものを感じているのは解る。
胸に暖かいものが広がるような感覚。
宝物を扱うように、両手でわたしの頬をつつみ、視線を合わせる。
いつものように笑っていて、どこか穏やかな眼差し。