第2章 虹色
「松乃、菖蒲ちゃんを来客の間へ連れて行くから、お茶出しお願い。」
「畏まりました。」
教祖様は嬉しそうに神楽のお嬢様の手を引いて来客の間へと向かわれました。
わたしは嬉しいのでございます。
つい先ほどの事なのです。
私たちの夜の清掃の義を終え、お祈りをしていましたところ、教祖様はいきなり立ち上がられ、血相を欠いて走って行かれたのです。
あんなに取り乱した教祖様は今までお仕えしてきまして初めての事だったのです。
残された私たちは心中ざわついて心配しておりましたところ、
帰ってこられたときはそれはそれは嬉しそうに女性の手を引いて帰ってこられたのです。
そして、その女性が以前教祖様にご紹介させていただきました神楽舞踊のお嬢様だったのです。
お嬢様、いえ、 霧滝様は戸惑っておいででしたが振りきれることもできたはずなのに、されるがままに付いてこられたのですから。
実を申しますと、教祖様、
元旦に寺院へ戻られた時から、どこか上の空でして、
時々、聞いたことのある歌を小声で歌っておいででした。
良く耳を澄ますと、神楽舞踊の唄。
それとなく教祖様にお伺いしたのです。
「最近何かありましたか」
と。
そしたら、教祖様、
「初めて、俺、あんなに躍りを見て感動しちゃったんだぁ。」
と仰るのです。
『感動』
『感』情が『動』いたのですよ!!
こんなに喜ばしいことがありましょうか!!
そしてこうも仰るのです。
「ずっと忘れられなくて、思い出すと何だか苦しいんだけど、これってなんなのかなぁ」
と。
もう、お赤飯炊きたくてしょうがない気持ちになりました。
15年間お仕えしてこんなことは初めてなのです。
「松乃、どうしたんだい?」
教祖様にご指摘いただくまで涙うるうるで、両手を組んで握りしめていたことに気づきませんでした。
「教祖様の心は、気持ち、感情が芽吹いたのですね!松乃は心より喜んでおります。」
「つまりは……」
「もし次にお会いすることになったときご確認できると思います。」
それだけを伝えて頭を垂れたのでございます。
「はぁ………これが……」
と嬉しそうなお顔をされた時、空っぽの感情は感じず暖かい春のような表情でございました。