第13章 花戯れ
「うん。上から見ると、君は崇高な花のようだ。
でも、下から見ると、なんだかとても無防備で、可愛らしいね」
頬を撫でていると、もっと近くにいて欲しくて
近くにある腕を引けば、俺の真上に驚いた様子の菖蒲がいる。
「まるで、花の蜜に誘われた可愛らしい蝶のようだ」
ほんのり驚いているのと、どこかおろおろしているようで
瞳が揺らいでいる。
新鮮だ。
もっと堪能したい。
「静代殿に約束したことは菖蒲ちゃんとの約束でもあるよ。
菖蒲ちゃんの笑顔も舞も、俺の感情の全ての源が君だから…」
頭を撫でると、更に困った顔になる。
頭を撫でられるの、好きだもんね。
「でも、今、この瞬間の菖蒲は、俺だけの菖蒲ちゃんでいてくれるんだろう?」
触れているだけなのに
可愛い
愛おしい
もっと触れたい
自らも甘い蜜に誘われる感覚に戸惑う。
菖蒲ちゃんが、俺の頭を同じように撫でて
瞳の奥まで優しく貫くように見つめてくる。
「はい。全て委ねます」
愛溢れる眼差しが心地よい。
同時に、唇にふれる唇の柔らかい感触に暖かい何かが脳の中で優しく弾けるように感じた。
気付けば頭を撫でる手が、欲を引き出すように動いて…
甘い蜜に溺れるのが心地よい。
口づけの間の慈しむような眼差し
胸が暖かくなって、一瞬心臓が優しく止められるような…。
あぁ…
これだ。
そういうことに引き込まれる瞬間の甘い沈黙。
二人が互いに、花の蜜の暖かさを求める蝶でありながら、
同時に互いが求めている蜜である事を忘れて貪るは
花と蝶の戯れのよう。
至極の極楽を垣間見せた『超えないと決めた壁』の、真奥への誘いに抗う事なく溺れていく。
先に口づけをおとした菖蒲は、自らが負った傷を感情を飾ることをしない無垢な男の愛情で洗い流すように早く深みに溺れることを望んだ。
「部屋に戻ろう?」
抱きかかえた菖蒲の瞳には涙の痕が一筋
鈍い光を放つ。
それがどうしても美しく儚い色を持っているように童磨は感じていた。