第12章 帰還と安穏
懐かしい匂いと声に涙が止まらなかった。
夢だと思ったけど、抱きしめられていっぱい撫でられて
これがただの夢じゃないことは解ったの。
でも、涙が止まらなかったのは、
ただの喜びだけじゃない。
_______ダメだった
_______迷惑をかけてしまった
_______心配かけてしまった
_______自分では何もかもできなかった
他にもドロドロな感情が詰まって苦しい。
素直に再会を喜べなくて「ただいま」が言えないのも苦しい。
久しぶりの手の感触、全部あなたはお見通しみたいで
「元気になってから考えたらいい」って言ってくれた。
童磨さんの言葉から、師範の名前や実田様のお話が出てきて、
何となくだけど、悟った気がしたの。
結局はわたしの決断が、こうしてみんなを巻き込んでしまった。
「おやおや、これは、泣き止めというのは厳しいのかな?」
まるで昨日までも逢っていたかのような「何も気にしていない」といった口ぶり。
この状況にいいわけも釈明もできずにいると、また布団の中で抱きしめられて、子どもをあやすように甘やかしてくる。
きっと、師範や実田様が童磨さんを動かした。
彼を鬼と知りながら…
わたしが、不甲斐ないばかりに、あんなことになってしまって
師範の舞も穢してしまった。
そんなわたしが
甘えていいわけがない。
甘やかされるべきじゃないのに…
やっぱり、こうされると心が落ち着いてしまうのが
悔しくて情けないのに…
熱と倦怠感には抗えず、気づけば再び目を閉じてしまっていた。
次に起きたのは、明け方頃。
松乃さんが重湯や薬を持ってくれて、眠っている間に師範と実田様が様子を見に来てくれたらしい。
「童磨様が菖蒲さんを気遣うご様子をご覧になって、安心して帰っていかれましたよ」
「また、元気になったら、先のことについてお話ししましょうと仰ってました。
必要であれば、その席を設ける手筈となっています」
わたしが知らないところで、わたしが気を病まないように動いてくれている。
まだ、いろいろ気が重くて、自分の不甲斐なさも申し訳なくてどうしようもない。