第12章 帰還と安穏
動く体温を伴う体温
涙の熱
待ち焦がれた声
それだけで、満たされる以上の溢れるもの
自然とそれに伴った声で声をかけた。
「ゆっくりでいいよ。心配することは何もない。
これからは、俺、ずっと傍にいるから。
まずは、回復するまで難しいことを考えるのは後回し」
「でも…」
「君が苦しんでいた理由も、しがらみも、全部俺が壊してきた」
動きが止まる。
あたまのいい君なら意味が解るだろう。
どうしようが、俺が何をしたかを知って、俺に頼る判断をしたのは静代殿だ。
だから気に病むことはないんだが…。
菖蒲は、抱きしめられながらも首を振る。
「で、でも……わたし…酷い事……貴方に、二度と会わないと……」
「うん、知ってるよ」
あぁぁぁぁ、可愛いなぁ。
そっちも気にするんだ。
正直、こうなればいいと思い描いていた通りになったから、気にしなくていいのに。
「君は、俺を失望させなかっただろう?
あの時、君があのまま流されて、俺の傍にいて舞も踊らなくなってしまったら、
鶴之丞に対して君らしくあがいていなければ、俺は君を迎えになど来なかっただろうね」
菖蒲のあの時の「拒絶」や
あの正月の、崇高な舞に見た生き様の結晶のようなものは、君の志の高さと意思の強さの証明であり、執着を強める餌でしかなかった。
「だから、ありがとう、菖蒲ちゃん。
君の生きようって本能が、
君がやってきたことが
静代殿や実田殿の心を動かし、行動に変えて俺まで届いて
今、俺は菖蒲ちゃんとまた一緒に居る」
まさに、俺が今生、鬼になってまで生を永らえて
ようやく出会えた崇高なる華だ
「あぁ~。放したくないぃ」
腕の中、笑うような息遣いと震えを感じられて
興味津々に彼女をのぞき込む。
泣きながらだけど笑うことがちゃんとできるようだ。
「早く良くなって欲しいから、我慢。ね?」
身体に負担をかけないよう、すぐに抱擁を解く。
まだ涙に濡れた瞳で俺を見たまま。
まだ何か話したそうにしているが、その様子では辛かろう。
目覚めたらここにきて、俺もいるのだから混乱してるのは当然だ。
あぁ、早く治してほしいから、眠ってくれたらいいのに。
それでも、可愛いと思ってしまうから、
眠るまで頭を撫でてあげよう。