第12章 帰還と安穏
「あぁ……やっぱり君は凄いな。
まだ、再会して日も浅いというのに、これほどまでに絶え間なく
俺の感情を揺さぶってさ…」
それは心からの安堵の吐露。
久しぶりの幸福感に胸が暖かくなる。
これで目覚めてくれて話をしてくれたなら
どれほど彼女に翻弄されるのか…。
そんなことを想像しながら
穏やかな午後もゆるりと過ぎていった。
菖蒲が目覚めたのはその日の深夜頃のこと。
飽きもせず彼女の横に寝転がったまま
ゆっくりと瞼が開くのを、蕾が開花するのを観察するように見守った。
「菖蒲ちゃん?」
声が届いたのだろうか。
ぴくりと反応を見せた後、
いろいろ記憶を辿ってはつなぎ合わせているのか、
黒い瞳が上の方でゆらゆらと何かを探すかのように彷徨っている。
ようやく、ゆっくりと顔ごとこちらを向けようとして、視線だけがこちらを見た。
「ぇ…」
驚いたような僅かな反応に胸が震える。
嬉しいという感じ方もまた新しいモノがあるらしい。
期待、不安が共存するそれは
想像するような第一声目なのか
予想以外の悲しいものなのか…。
俺の心情を他所に、菖蒲の瞳から、大粒の涙がとうとうと溢れ出した。
「おかえり…。迎えに着ちゃった」
あれれ、なんで俺まで涙が溢れてくるんだろう。
目尻から、堰を切ったように涙が溢れるのを止められない。
先に同じように涙を流すの菖蒲から目を反らすことが出来ない。
「わたし…わたし…」
あぁあぁ…まだ肺が痛むだろうに。
そんなにヒクつかせてさ…。
それまでやっていた感情観察など忘れて
気付けば菖蒲の心配。
「心配することはないよ。静代殿と実田殿がもうじきこちらに来られるだろう」
「…?!……っ…ごめんなさ…」
「なんで謝るんだい?俺は今、凄く嬉しいのに…」
あ…もっと泣かせちゃった。
あまりにも子供のように泣くものだから
彼女の布団に潜り込んで、
出来るだけ負担をかけないように
細くなってしまった体ごと抱きしめた。
「ねぇ、帰ってきたら、なんて言うんだっけ?」
「......ごめん…なさい…まだ、頭…整理つかない」
小さい声。だが心地よい。
ここまでは、頑なで真っすぐな君としては想定内。
興味がないから冷静なんじゃない。
解っているから冷静でいられる。