第11章 浄土と氷獄
ゴンッ!
次の一打は、「流派の師範」としての過去の自分を、自らの手で封じる儀式。
この釘が打ち込まれた瞬間、華雅流は死に絶え、静代は一人の師、一人の母として生きることを誓う。そして、童磨の行う血の粛清に対する、師としての共同責任を負う証でもあった。
三度目を打ち終わると、静代は血の滲む手で槌を放した。大杉に打たれた釘は、闇の中で、彼女の贖罪と覚悟を静かに示している。
その瞬間、遠く離れた鶴之丞の屋敷あたりに白い靄が局地的に濃くなり始めた。
______もう、始まったのね……
静代は、静かに姿勢を正し、白装束のまま、雪の上に深々と頭を下げた。
「菖蒲を頼みます…」
その眼にはゆっくりと涙が溜まり、そして一つ筋を残して流れていく。
「菖蒲ちゃん、どうか、生き延びなさい。そして、心から望む場所へ行きなさい……」
その声は白い靄が薄くかかる冷気に溶けていった。