第2章 虹色
それでも後ろからどんどん男が近づくから足を止めるわけにもいかない。
でもそうこうしているうちに、追い詰められて、あろうことか店じまいしてしまった商店が立ち並ぶところに来てしまった。
「君、どうしてくれるの?
俺の人生狂わせやがってよぉ。」
「あなたは………!」
そこにいたのはこの間の実田さまの秘書の米澤だった。
怒りと強烈な狂った欲望の匂いで
一気に青ざめて恐怖で動けなくなる。
「へぇ、近くで見ればなお良いツラしてるなァ。
お前のせいで会社クビになったんだよ。せっかく苦労して入ったのによぉ。
テメェの体で一生償えぇ。」
「そ、そんなことを言われましても自業自得じゃないですか!」
ガタガタ震えて力がでない。
地面にヘタり込んでしまって辛うじて襟元を押さえて身をよじるようにした。
それでも伸びてくる手は着物の襟を掴まれてグッと引き下げ、
阻止しようと力をいれるも力で押しきられ、左が露になる。
「いや……!」
体ごとを背けて必死に抵抗してると、急に辺りの雰囲気が変わるがそちらを向けない。
「ふざけんな!ここで……グフッ!」
「ダメじゃん。女の子いじめちゃぁ。」
飄々とした声に反して殺気だった雰囲気。
米澤は倒れた。しかし、
その後ろに立った男は犬歯が異様に尖って、目は自発的に七色で妖しい光を放っていた。
元旦に帰宅した時感じた匂い。
鬼だと思った。
家族を襲い奪った鬼とは比較にならないほど、重苦しく暗い匂いで解ってしまった。
「ねぇ、君、大丈夫?立てる?」
差し出された手は指先から黒い爪が伸び、傷もなく綺麗な手。
鬼に助けられ、害の無いしゃべり方拍子抜けして、最早思考がついていかない。
「あなた………鬼でしょ…?一度わたしを尋ねてきた………どういうつもり?」
恐る恐るそう尋ねると、男は驚いた面白いと言うような目をして答えた。
「おー!凄いねぇ君。もう解っちゃったんだ!
え、どうして?どうして?」
興味深々と言ったような表情でズイっと顔を覗き込んでたに驚いて慌てて仰け反った。
「に…匂いと………目の光で……。」