第10章 凍土の胎動
”人ならざる者””過去の事件の主犯らしき人物”そう解っているものに頼むことを決めてここに来たからには、全てお任せし、罪を背負う覚悟はしてきたふたりにとって答えはすでに決まっていた。
ただ、全てこちらが思っていた通りだっただけのこと。
「全て仰せの通りに致しましょう。もちろん、その覚悟で参りました」
「そうかい…」
全ての答えは童磨にとって満足できるものだった。
それを裏付けるかのように、再び禍々しさは消え失せ、本来の虚無に快を帯びた笑みに戻る。
「今回の件、引き受けよう。菖蒲のためだ。蔵の状態、見張りの有無、鶴之丞の行動様式、詳しい情報を松乃に渡したまえ」
童磨の承諾は、あまりにもあっさりとしていた。だが、その言葉には、絶対的な力が宿っていた。
静代は、安堵と感謝で、その場で崩れ落ちそうになった。
童磨の瞳の虹色が、最後に一瞬、全てを凍らせるほどの冷気を放った後、再び柔和な笑みを湛える。
「松乃、静代殿と実田殿から、鶴之丞の屋敷のありさまを、細部まで聞かせてもらいなさい。
そして、俺が出る幕と、その時菖蒲がどこにいるのかだけを教えてくれたらいい。
俺は俺で準備に取り掛かるとするよ…」
「畏まりました」
松乃は、部屋の隅に控えていた唐津山と共に、すぐに静代と実田の前に座った。
実田は、既に用意していたメモを取り出し、鶴之丞の帰宅時間、見張りの使用人の配置、そしておふみからの伝言を受け取るための合図を、松乃に詳しく伝える。
童磨は、その詳細な打ち合わせを背中で聞きながら、静かに本堂の奥へと消えていった。
外の太陽はすでに傾き、山を覆う冷気の中に、救済と破滅を孕んだ計画が静かに動き出した。
それはまるで、氷獄への門が開く前の胎動のように、目に見えぬ形で
深く
強く
その時を待つかのように