第2章 虹色
その後、お手洗いに行こうとしたとき、
後ろからだれか付けてくる感じがした。振り向いても誰もいない。
しかし、また向かえば歩いてくる。
そして、お手洗いの部屋に入ろうとしたとき、後ろから
「米澤君、そっち女子トイレだよ。」
という役員の方の声。
「あ...いえ...。あ、アハハ。間違えました。男性のはこっちでしたね。」
といって少し後ろを見たら、先ほどの秘書の方だった。
(絶対つけてきて何かしようとした)
そう確信づいて血の気が引いた。
役員の方が目配せして、見張ってるから行っておいでというような身振りをされたので、深く頭を下げて早く用を済ませて出てきた。
控室に戻るも、まだ後ろに付きまとわれている感覚がして怖くなっていた。
会場に戻りづらくなっていると、控室のノック音がして、
「菖蒲ちゃん。実田だ。ちょっと出てきてくれないかな?さっきうちのが、失礼しちゃったことを謝りたいんだ。」
その声が実田様のものだとはっきりわかると恐る恐る顔を出した。
「菖蒲ちゃん、本当にごめんね。
さっき君がトイレ入っていこうとしたところうちのが君についてまわろうって姿を見かけたと、永田が教えてくれてね。
これ、お詫びと宿賃だ。
これ持って早くここを出なさい。
ここの会場の事は心配いらないよ。」
明らかに札一束は入ってそうな厚さの封筒。
さすがに多すぎて受け取れない。
「いえ、こんな額!!受け取れません!!
せめて、またご指名ください。」
「いやいや、女性に不愉快な思いをさせたんだ。僕にも娘がいるからなお、そういうことが許せなくてね。」
そんな感じのやりとりが続いて、最終的には半額だけでも受け取ってと言われたので
有難く頂戴し、会場を後にした。
久しぶりの夜の外の世界。
明かりがあちこちともされて、どこもにぎやかだった。