第9章 花散し
鶴之丞が監視する中、使用人によって屋敷の裏手にある蔵へと連れていかれた。
表情をゆがめる使用人に、鶴之丞に聞こえないように声をかけた。
「冷酷にしていなければダメよ」
そう諭したけれども、旦那様がいなくなった隙を狙っては厚手の布団を運んできて蔵の外から目の届かないところを掃除して敷いてくれたりした。
ぐったりしたまま体が動かせない。
季節は反して寒さが増す、師走に入った頃。
全て罰が当たったんだと思う。
もともと旦那様があのような方だとはわかってはいたけれど、それでも神楽舞踊が好きだったから。
わたしが記憶を遡れる末端のところから舞踊を途切れさせたことはないほどに生きがいだったから、
この流派を守らなければならないと思って嫁いだのに…
守らなければならない人の心を踏みにじった罰?
人外である人喰らいの鬼に溺れた罰?
何より、アレを生み出した父の罰を魂で引き継いだわたしが、幸せと人生の成就を願った罰だろうか…
どうでもいいというのに、自死するのは違って、暗い蔵の奥、日の光が入る。
雪がハラハラと散り、高熱のせいかそれが桜のように思った。
自ずと表情が綻びてしまうのは、幸せの幻想と祈りが混ざった穢れたものかもしれない…でも、
「舞いたい…」
ふと、体が軽くなり吊られて立ち上がる。
この魂を持つ体を使って表現したい何かに憑依されて共鳴するような、不思議な浮遊感だった。
蔵の奥、唯一の光が差し込む細い隙間から、高熱の目に鮮やかな桜の花びらの冷たさが迷い込んでは肌に溶けて消える。
徐々に桜吹雪と化したその光景が、あの日、童磨に連れていかれたあの夜の鮮やかな景色の中の暖かさを脳裏に蘇らせた。
_____命がある限り、舞い続けよう。
守れなかったもの、失ったもの、そのすべてが胸の奥で血を流していた。
しかし、舞だけは、誰にも穢すことのできない彼女自身の魂の領域。
薄汚れた粗末な衣を纏ったまま、静かに手を上げた。
その動きは、知らぬ者から見れば病に侵された、弱々しい動作だったかもしれない。しかし、菖蒲の内面では、それは命を懸けた、究極の「志」の昇華だった。