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極楽浄土【鬼滅の刃/童磨】

第9章 花散し




以後、全ての菖蒲に対する訪問客を邪険に追い返し、送られてくる手紙は開封せずに暖炉で焼き払うようになる。

その煙は、菖蒲への外部からの助けと希望が、この家の中で静かに灰となって闇に飲み込まれていく様子を象徴していた。




ある日から菖蒲の体調が芳しくない日が続く。
それでも、仕事のためと言い聞かせながらも舞の稽古をつづけた。

無理と鞭で仕事や稽古に勤しんでいると、とうとう高熱が下がらぬ日が続く。
それでもと稽古をつけているとついに、その日の昼、眩暈と激しい咳が菖蒲を襲った。

堪えきれず畳に手をついた瞬間、口元を覆った手に鮮やかな真紅が滲む。

「……っ」

彼女の意識は一瞬で遠のいた。肺が焼け付くような激痛と、鉄の匂い。自らの命が削られているという紛れもない事実に、全身から力が抜けた。

「奥様!菖蒲様!!」
「ひどい熱です!お医者様をお呼びして!!」
「はい!」

倒れ込む菖蒲を、駆け寄った使用人二人が悲鳴のような声で支え、医者を呼ぼうと一人が廊下に出た。

しかし、その悲鳴を聞きつけた鶴之丞が、血相を変えて部屋に飛び込んできた。だが、その顔には驚愕よりも、怒りと鬼への恐怖が色濃く浮かんでいる。

「穢れを撒き散らすな!この阿婆擦れめ!貴様の穢れは、この家を、この流派を滅ぼすつもりか!」

「家元!あんまりです!ここまで菖蒲様がご体調を悪くしていらっしゃるというのに医者には「この阿婆擦れに医者などムダ金にしかならぬ!」

鶴之丞は、菖蒲の弱った体すら触れることなく、ただ絶叫した。

「しかし!」

「私に意見をすればどのようになるか解っておろう!」

今にも殴りかかろうとする剣幕ぶりに使用人は息をのみ、動くことすらできなくなる。

その様子を確認すると、鶴之丞はすぐに踵を返し使用人に指示を出した。

「病人などいらん!蔵に入れろ!穢れがうつらぬよう、誰も近づけるな!」

彼の恐怖は、ついに狂気的な監禁という手段を選び取らせた。

菖蒲は、使用人の腕の中で、降り始めた雪のように冷たい鶴之丞の罵倒を聞きながら、静かに目を閉じた。彼女の身体は、もはや抵抗の限界を迎えていた。
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