第9章 花散し
雪の粒は、彼女の舞のたびに狂い咲く桜の花吹雪となる。 寒さで乾燥した肺から湧き上がる咳は、舞の調べに合わせて打ち鳴らされる魂の鼓。
その一挙手一投に
想いも
思い出も
願いも
祈りも
全てを込めた。
_____舞い続けなければ。散り果ててしまう前に
肉体から切り離す、舞への衝動に踊らされながら
ただ舞の持つ力と光に身を委ねた。
最期に会って体温を感じた時、口にした言葉が思い出される。
『わたしは、わたしを辞めたら、きっと…
童磨さんの特別じゃなくなる…』
_____結局は、わたしを辞めれないのは、全て…
___あなたの特別であり続けるため?
そこからは、涙がタガを切ったかのようにせき止める物もなく極彩色で彩られた思い出があふれ出す。
全ては、あの人に捧げる、言葉にならない『最後の告白』
そして、舞の最高潮。
身体の奥底から、激しい鉄の味が込み上げてきた。
魂から生み出されていた衝動の鼓は、ついにその旋律を乱す。
「……っ」
声にならない呻きと共に、光を失った体は、冷たい土間へと倒れ込む。
意識が途切れる直前、目の前の雪の桜が、真紅の血に染まり、醜く穢れていくのを見た。
冷たい涙が、流れ落ちた。それは熱を持たず、ただ冷たい雫となって、血と土の上に落ちた。
_____ごめんなさい……ごめんなさい……
言葉にできない
しかし、その言葉を口に出すことは、自らの選んだ道と、耐え抜いた全てを否定することになる。
その究極の痛みに、菖蒲はただ涙を流し、沈黙を選んだ。
意識は、氷のように冷たい蔵の暗闇へと吸い込まれていった。