第11章 那田蜘蛛山
琴音が現場に付く。
報告通りそこは惨状と化しており、既に息絶えている者がほとんどだった。とにかく、まだ生きている者を隠と共に手当をして回る。
「琴音!」
「蟲柱様」
しのぶが琴音を見付けて駆け寄ってきた。現場ではきっちりと上下関係を貫く琴音。しのぶの前に膝をついた。
「いいところへ。強力な毒を浴びた者がいます。息はあるので治療願います」
「わかりました!」
しのぶの案内で琴音は負傷隊士の元へ向かう。
「新人隊士だそうです」
「今年の子……カナヲちゃんと同期ですか。よく生きてましたね」
「ちゃんと鬼の頸も切っています」
「それは凄いですね」
走っていくと、ゴロゴロと隊士が転がる中で黄色い頭の少年が瀕死でぐったりとしていた。
「この子ですか?」
「そうです。取り急ぎ、新薬の解毒剤を使いました」
「先日のアレですね。注射?内服?」
「注射です。四半刻程前です」
「わかりました。なら、効いてれば内臓は回復してきてるかも」
しのぶと話しながら、琴音は少年の脈や呼吸症状、眼球の動きなどを手早く確認していく。
「あと、こちらの方々も」
にこりと笑ってしのぶは蜘蛛化した人間を掲げた。
琴音は「ひっ…」と小さく悲鳴を上げる。
なにあれ怖い。あれは怖い。蜘蛛じゃんもうそれ。でかい蜘蛛じゃん。
触れないよ、あんなの……
蜘蛛化した人間は涙を浮かべながらカサカサと助けを求めて琴音へ近付く。
「わ、わかったよ!助けるよ!助けるから、ちょーっと離れててもらえますか?順番!順番こだからね!」
青ざめながらも琴音は目の前の少年から集中を切らさなかった。