第10章 稽古という名の
何故そんな事を考えてしまうのか。
答えは一つだ。
琴音はここでしっかりと己の感情を自覚をした。
私は、冨岡のことが好きなんだ――…
彼と初めて刀を合わせ、そのとてつもない強さを知った。後輩をしっかりと指導する優しさを知った。言葉がなくてもご飯を美味しいと伝えられるのだと知った。
そして義勇が……、あの不器用な義勇が、柔らかな笑顔で微笑むことを知った。
しかし、自覚したところで、恋愛経験が皆無の琴音はどうしたらいいのかさっぱりわからない。剣術や薬学のように、己の鍛錬でどうにかなるものでもなさそうだ。
仕方ないので、じたばたするのはやめて、一旦流れに身を任せることにした。
布団の中、琴音はなかなか寝付けないでいたが、枕元に置いた結紐を見て少し微笑むと、気を張っていた昼間の疲れで徐々に眠りに落ちていった。
しかしながら、この二人にゆっくり恋愛などさせてやれるほど鬼殺隊には余裕がない。
二人がこの後に会うことができたのは、戦いの中。那田蜘蛛山でのことだった。