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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第10章 稽古という名の


一方琴音は。
額を抑えて、家へと走っていた。

……ねえ、今の何っ?何なのっ?お礼?ああ鮭大根美味しかったのね!そりゃ良かった!良うございましたとも!

混乱を落ち着けようとするが、より混乱していく脳みそ。煉獄家の入り口を走って通り過ぎたところで琴音は足を止めた。

帰宅が遅くなったので、もしかすると杏寿郎が玄関で仁王立ちして待っているかもしれない。こんな茹でダコのような赤い顔をしての帰宅は、とてもじゃないが出来ない。

ふうふうと荒い呼吸を整えていく。

……こんな時は…、そうだ、先生の怖い顔と地獄の修行時代を思い出そう……

琴音は、鍛錬と称して鬼のいる洞窟に突っ込まれたり、薬草を三十種見つけるまで帰ってくるなと追い出されたり、足がすくむような高い崖を命綱なしで登らされたりしたことを思い出して、心の高揚感を抑えていった。
それは一応の効果を示し、だんだんとげんなりとしてくる琴音。冷静さを取り戻して、頬の赤みも消えてきた。


ん?そういえば、おじいちゃんもよくおでこやほっぺに口付けしてくれてたな……
異国では挨拶なんだとか
そうか、冨岡はそれを知ってて、お礼という名の挨拶をしてきただけなのかもしれない……

――『You are my treasure.』
あなたは私の宝物だよ。そう言って優しく抱きしめてくれた祖父。彼からの口付けは茶色のもじゃもじゃした口ひげが当たってくすぐったかったけれど、凄く嬉しかったことを思い出す。

心がほんわかと暖かくなった。
落ち着いた琴音は、煉獄家へと帰っていった。


義勇からの口付けは、琴音の中で『挨拶』という括りに入れられてしまった。
義勇の性格を考えれば、そんなことは到底あり得ないはずなのに、琴音はそうやって対処するしか出来なかった。


そうでもしないと、あらぬ期待を抱いてしまうから。義勇が自分に……特別な感情を抱いているという期待を……


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