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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第10章 稽古という名の


額に感じる、暖かな感触。
琴音は目を見開く。

起きていることが理解できない。
自分はこんなにも阿呆だったのか。
琴音は思考が停止したまま、石像のように固まってしまった。

微かなリップ音をさせて、義勇が唇を離す。
まだ呆然として動けない琴音。

「…………」
「…………」
「あ……の、………」
「なんだ」
「冨岡サン、今のは何でショウ」
「礼」
「レイ?」
「鮭大根の」
「ああ、鮭大根ですねそうですねそうですか」

明らかに琴音の脳みそは爆発状態だ。

「I see.」
「……?」
「That's……That's ok.」
「おい」

大混乱が過ぎて、何故か異国語が飛び出す琴音。彼女がおかしくなったのかと義勇も少し焦る。

「じゃ、じゃあね、冨岡」
「おい、夜月」
「See you!」

そのまま琴音は動揺を顕にしながら、風の様に走り去っていった。

残された義勇も、冷静さが戻ってくるにつれて己のとんでもない行動を認識していく。
帰路を歩き出す足がよろりとふらついた。


……俺は、一体何を……

頬を染めて、口元を手で抑える。


まるで、送り狼だろう……何をしている……

衝動的に体が動いてしまったのは、屋根の上で彼女を抱きしめたあの時を含めて二度目となる。二度目…というのは、もはや「ついうっかり」でのことではない。


恋情というのは、恐ろしいものだな……

一人歩きながら、義勇は頭を抱える。
あんなことをするつもりはなかったのに。離れ難いという気持が、行動を起こしてしまった。


……嫌われていないといいが

義勇は冷や汗を流した。
琴音が発していた意味のわからない言葉。おそらく異国語であろうあの言葉が「何すんの馬鹿、助平爺、大嫌い」とかだったらどうしよう……と、義勇は要らぬ心配をしていた。



これじゃ稽古という名の逢瀬じゃないか


夜空に向けて、ため息をついた。

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