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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第10章 稽古という名の


一人なら走って帰るが、二人なので歩くことにした。てくてくと二人、夕暮の中を歩く。

「袈裟斬りの時、左をもっと引け」
「うん」
「今は庇っているのもあるだろうが、利き手に頼りすぎだ」
「わかった。他は?」
「速さをもっと活かして、威力に還元できるといい」

二人の会話は、剣術のことばかり。あまり喋らない義勇も、気付いたことを教えてくれた。
そして、二人の歩く速度は速いので、あっという間に煉獄家の近くまで来た。

「冨岡、送ってくれてありがとう。もうここで大丈夫だよ」
「………ああ」
「本日は稽古を付けていただき、ありがとうございました」

琴音は丁寧に頭を下げた。

「じゃ、またね!」

そう言って家に向かって歩き出そうとする彼女の手首を、パシッと無意識に掴んだ義勇。
琴音が驚いて振り返った。

「え、冨岡……?」
「…………」

何故掴んでしまったのか、自分でもわからない。彼女の腕を握ったままの自分の手を見る。

「……どうしたの?」

琴音がやや戸惑いながら聞いてくる。
義勇は琴音と目を合わせずに黙っている。しばしの間、時が止まったかのように二人はじっとしていた。

「冨岡。私、帰らないと」

遠慮がちに声をかける琴音。彼女が困惑しているのが声から伝わった。
でも、離したくない。義勇はそう思ってしまう。

義勇は腕にぐっと力を入れ、琴音を己の胸へと引き寄せた。
驚いて「きゃっ」という小さな声を上げた琴音は、そのまま義勇の懐へと収まった。
手を掴んでいない方の腕を、そっと彼女の腰元に回す。


「冨岡!何を…、」

義勇の腕の中で、見上げるように顔を上げた琴音。その額に、琴音の手首を離した義勇の手が添えられる。義勇の指は、彼女の長めの前髪をそっと掻き上げた。


「今日の、礼だ」


小さな声で義勇はそう囁くと、琴音のおでこにそっと柔らかな口付けを落とした――……


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