第10章 稽古という名の
全力の技を出し合い、木刀を合わせる二人。
戦う二人の力は、やはり互角とはいかず、義勇の技の方が強い。
「くっ……」
息が上がり始め、技の威力も落ちてくる琴音。猛烈な斬撃を受ける度に手も痺れ、足の踏ん張りも効かなくなってきた。
義勇の技を流す際に躱しそこねて、木刀が音を立てて粉砕された。義勇の木刀が、ヒュンと風を切って琴音の首元に当てられる。
「……はぁ、はぁ…」
「……………」
「参りました」
「………ここまでだ」
「ありがとうございました」
義勇は刀を引く。
琴音は荒い息のまま縁側へと歩いていき、ぺたんと座った。彼女は俯いていて座っているので顔は見えないが、もの凄く悔しがっているのが気配でわかった。
義勇は井戸へ行き、水を汲んで飲む。
竹筒に水を入れて琴音のところへ行き、傍らに置いてやった。
琴音の隣に座り、片方の草履をぽいっと脱いで縁側に片膝を立てる義勇。しばし並んで無言で座る。秋の風が疲れた二人を癒やすかのように優しく吹いていた。
「強いぞ、お前は」
義勇がポツリと呟いた。人に気を遣って声をかけるなど、義勇史上稀に見る出来事だろう。しかし、それをしてもなお、琴音はどんよりとしたままだった。
「……勝てなきゃ弱いんだよ」
「違う」
「ん?」
「俺が強いと言ったら、強い」
義勇は琴音を見て、繰り返して言った。
琴音は知っている。義勇は多くを語らない。だから嘘を言ったりもしない。彼が口にするのは、言いたいと思ったことだけだ。
励まそうとしてくれている不器用な彼の優しさに、思わず涙腺が緩みそうになるが、ぐっと締める。
「何よそれ」
「そのままの意味だ」
「強さの基準は冨岡次第なの?」
「そうだ」
「ふふふ、そっか」
琴音は緩やかに笑う。先程までのピリピリとした戦いの緊張感はもうどこにもない。
「冨岡がそう言うなら、私は強いんだね」
琴音は「お水、ありがと」とひと声かけて竹筒を手に取り、こくりと水を飲んだ。