第10章 稽古という名の
「もう一本!」
「いいだろう」
負けじとかかっていく琴音。彼女の負けず嫌いは健在だ。義勇は竹刀を合わせながら昔の琴音を思い出した。
『あんたには負けない』
かつて、そう言って睨んできた小さな女の子が、ここまで成長して強くなった。義勇が少し感慨にふけっていると、突如として眼の前から琴音が消えた。
「戦いの最中に考え事?随分余裕だね!」
一瞬のうちに背後に回り込まれ、足元にバシッと竹刀を当てられる。
「へへへ」
「……くそっ」
可愛くないところも多少増えた気がする。
少し悔しそうな表情を見せる義勇。
「ね、冨岡。そろそろ庭行こ」
「ああ」
「木刀にしよう。竹刀じゃ持たないよ」
「そうだな」
ここまでは準備運動。かなり激しく動いていたが、二人は汗一つかいていない。
庭では実践を模した稽古となる。道場で呼吸を使った型なんかを放つと壊してしまうためだ。
義勇はそのまま縁側から庭へ出て、琴音は玄関で草履を履いて庭へ回ってきた。
ここから先は、一瞬でも気を抜いたら大怪我だ。互いに集中力を高めていく。
「お願いします」
「ああ」
琴音は木刀を構えると、ゴオッという音を立てて炎を纏いながら義勇へと飛び込んでいく。
先程までの剣撃と、速さも威力も違う琴音の「不知火」。それに対して「打ち潮」で応戦する義勇。木刀が合わさると、そこからビリビリと激しい衝撃波が生まれた。彼女の深紅の羽織と長い髪が、義勇の眼前で揺れる。
すぐに切り替えして義勇の側面を狙って技を出す琴音。大きく息を吸って放たれたのは「炎虎」。琴音の技に義勇は「ねじれ渦」を当てていく。
どちらも大きな技を出し合い、それが合わさって巻き起こる突風で、嵐でもないのに庭木は大きく揺さぶられた。
義勇の切れ長の目と、琴音の丸くて大きな漆黒の瞳が合わさる。そこには恋情は一切なく、真剣そのものだった。